本コバブログ:書評「快挙」を読んで

「本と、珈琲と、ときどきバイク。」の
店主がお送りするブログ。
略して“本コバブログ”。

今回は白石一文さんの既刊
「快挙」を読んで
感想などを綴りたいと思います。
ネタバレなしで、
表面的になりすぎず語りすぎず、
ちょうどよいバランスを狙って、
この本が読みたくなるような
表現を心がけます。

今回は全然新刊ではありません。
この本が文庫化されたのが、2015年10月。
なぜこの本を読むことになったかといえば、
きっかけは「高久書店」店主
高木さんのオススメから。

僕が白石さんの作品を拝読したのは
おそらく記憶にある限りは、
今年6月に出たばかりの
新刊「道」が1作目。
もちろんその名は存じ上げておりましたが、
僕のアンテナが受信できてなかったようです。
なぜだかこのタイミングで手に取り、
「道」を「高久書店」で購入。
その際に会話の流れから
オススメして頂いたのが同著者の本作「快挙」。

ぜひ読んでみたいと思い、
仕入れるべく出版社に連絡したところ、
在庫なしの重版未定状態。
やむなく、Amazonにて古本を購入。
溜まっている積読から優先して
読了したのが経緯でして。

それで今に至るのですが、
控えめに言って、
心にブッ刺さりました。

まずはあらすじをご紹介。

写真家を目指す俊彦は、小料理屋を営む
二歳上のみすみと結婚する。
やがて小説に転向した夫を、
気丈な妻は支え続けた。
しかし平穏な関係はいつしか変質し、
小さなひびが広がり始める……。
それでもふたりは共に生きる人生を選ぶのか? 
結婚に愛は存在するのか? 
そして人生における快挙とは何か? 
一組の男女が織りなす十数年間の日々を描き、
静かな余韻を残す夫婦小説の傑作。

(出版社サイトより添付)

さらに出版社サイトの
見出しに素敵な文がありました。

「あの日、あの場所であなたを見つけた。
その瞬間が私の人生の快挙。」

読了後に改めてこの文を読むと
その真意が深く心に沁みます。
読み進め、最後に向かうに従って、
本を読む手が震え上がるほど
感情を抑えられませんでした。
一字一句に緊張感が走る
余韻だらけの物語。
基本ストーリーはこのあらすじで
過不足なく全く問題なし。
結論がある物語ではないので、
主人公たちが何を思い何を経験し、
何を積み重ねてきたのかを
知るための物語とも言えると思います。
それが「生きること」の芯を食ったような、
琴線に触れる物語となっています。
そして読者に対して、
結末を想像させる
憎い演出もありまして、
我々の想像力すら試されます。


さらに勝手ではありますが、
今作に込められている大事な
哲学的なメッセージすらも
僕は感じましたので、
まとめさせて下さい。

人生はままならない。
どれだけ困難が起きようとも
情けなく、みじめだとしても

前に進み、生きていくほかない。
それでも少なからず

手を差し伸べてくれる人もいる。
大事なのは、才能や努力よりももっと深く、
そんな支えてくれる人の存在に気づくこと。
そして目の前のできる事を
コツコツと積み上げていくことでしか

可能性のある未来は近づいてこない。
そして「今」を足掻くことによってのみでしか
「現実」を実感できないということ。

どれだけ辛くとも
自分の人生に目を背けるわけにはいかないのだ。

逃げる時があってもいい、
休んだっていい、クヨクヨしてもいい、
目を覆いたくなる時だってあるだろう。

それでも自分の意志とは関係なく、
否応なしに落とし前や尻拭いは
絶対自分に降りかかってくる。

その時に、胸を張っていたい。
「生きる」ということがここにある。

そんな重ためだけど、
とても力強いメッセージを
受け止めることができたように感じました。
この物語を表面的に捉えるなら、
小説家を目指すヒモ夫と
居酒屋を営む妻との
夫婦葛藤の半生物語にしか
ならないのだけれど、
そこに込められた時間の蓄積や
思考、葛藤といった人間ドラマが
しっかりと描かれているため、
かなり真っ黒になるほど奥深く描写されています。
時代は昭和〜平成にかけてなので、
男を男らしく、女を女らしくという
旧価値観による男女の描き分け方に
好みが分かれるかもしれませんが、
それでもぜひ読んでみていただきたいですね。
気づきや考えることの多い本かと思います。
当店では貸出本として扱ってますのでぜひ。


この本を読んでいる時、
ホント人生って辛いことだらけだなと、
不運も合わさるともう目も当てられないと
「明日は我が身」かもと思うこともありました。

・こんなはずじゃなかった、
・辛い、
・逃げたい、
・情けない、
・死にたい、
・俺はもっとやれるはず、
・なんで俺だけなんだ?

作中にこれら負の感情と不運が
これでもかと全て襲ってきます。
それでも自分を保って
いられたのは一番近くにいた
妻の「みすみ」のおかげであり、
辛い話なのに、足元に所々光る
小さな希望の数々が描かれているため、
テンポよく何とか読み進めることができました。
文体も非常に読みやすく、
全体のボリュームも多くないので、
一気読み必至。
短文で一言一言明解に
区切っていくのが白石さんスタイル。
が故にその一文の重みが浮き彫りになるし、
多くを描き過ぎないことで、
行間や空気感すらもまとった、
わかりやすくも深みのある表現に
なるのかなと僕は分析したわけですが。
ボリュームが少ないのに時間の経過や蓄積を
感じられる文体や描写に舌鼓でした。

今回は新刊ではないかつ、
現状新品で入手不可となっている本、
「快挙」のご紹介をさせて頂きました。

ぜひその世界観を味わって頂きたい思考本。
自分と向き合うのに最適な本かと思います。
多感な時期に読んだならば、
人格形成に影響が出るくらい
力強いメッセージすら僕は感じましたね。

今回はこの辺で。
長文読んで頂き、ありがとうございました。

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