本コバブログ:書評「Row&Row」を読んで

「本と、珈琲と、ときどきバイク。」
店主がお送りするブログ。
略して“本コバブログ”

2023年ももう半分が過ぎまして、
梅雨明けはもう少し先。
肌にまとわりつく湿気を感じながら
久々の書評ブログです。
カッコつけてますが、
ただの個人的感想と備忘録です笑
来年の本屋大賞候補にぜひ投票したいと
思うほどの素敵な本と出合いまして。
ゲラの段階で拝読してからも、発売してからも、
しばらく経った本なのですが、
敢えて時間を寝かせて、
今回のブログにて綴らせて頂こうかと。
というのも、
この作品をどう表現してよいものか、
なかなか言葉を紡げなかったわけでして。
長編ですが
夜通し読み続けてしまったほど、
濃厚で深い余韻に包まれた小説。

その作品ですが、
村山由佳」先生による
「Row&Row」でございます!
2023年の3月発売の本。
今回はこの本の
感想などを綴りたいなと思います。
ネタバレなしで、
表面的になりすぎず語りすぎず、
ちょうどよいバランスを狙って、
この本が読みたくなるような
表現を心がけます。

村山さんといえば、
「おいしいコーヒーのいれ方」
シリーズで親しみのある方も
多いのではないでしょうか。
他にも「星々の舟」など
素敵な作品を多く執筆している方。
男女の心の機微を言語化させたらこの方!
と僕は尊敬するほどにその文体の豊かさに
共感含め、数多く心打たれます。
女性側だけでなく、
男性側の気持ちをも的確に表現している
その表現力にズブズブと僕の心がエグられるのです。

そして何を隠そう、
作家たちが踏み入れにくい領域である
性的な描写についても、逃げずに真正面から
濃厚に描かれている点も大きな魅力。
人間のキレイな部分だけではない、
夜の顔というか、男のカラダ・女のカラダを
リアルな現実の表現として描写されています。
"カラダの疼き"の言語化など、
目からウロコというか、
見事に言い当てられている感覚。
ただの情動や快感といった表面的な
性欲のイヤらしさだけではなく、
気持ち悪い感情も、
外聞や恥や醜さから解き放たれたい感情も、
倫理的に正しくないことも、
それに抗えない気持ちも、
全て込み込みで
"美しさ"に昇華された表現、、、
読んでいて非常に気持ちがイイ。
感動すら覚えます。
僕は村山さんをとてもカッコいい作家だなと
感じるところであります。
すでにただのファンなのですが笑

ここ最近はそういった性描写を
作品で表現されることの多い作家ですので、
当然人を選ぶ作家とも言えます。
もちろんそれ以外にも
さまざまな作品出してますので、
シンプルにその文体に強く惹かれるものが
あるはずで、どの作品も僕は
強くオススメしたいと思っています。

そして今回の「Row&Row」という作品ですが、
ジャンルを表面的になぞるなら、
"不倫小説"に当てはまる物語。
ますます人を選ぶ小説かもしれませんね笑
でも僕の目線ではそこは本筋では
ないように強く感じているわけでして。


この本を一言で表現するなら、

「一緒にいるのに孤独」
それを感じた時、
「あなたはどうしますか?」
この問答に尽きるのかなと。



SNSやさまざまな記事等で散見する、
現代人のテーマ
「『自分』を生きる」
通ずるものがあると感じます。
僕はこの考え方に
とても共感している一人。

作中の状況としては、
10年以上続いている夫婦生活。
子供はなし。
お互い気心も知れて
尊敬や感謝するところもある。
けれどそれぞれに孤独や違和感を
抱えている中で、
不意のタイミングで起こる
歪みと出会いの果てにあるものとは...

恥ずかしながら、
僕自身の現状とかなり親和性が高く、
さまざまなシーンや心情が
身に染みて重なるわけでして。
僕はこの作中の男女のどちらかに
肩入れするという見方ではなくて、
(コメントでよく見るのは
「こんな旦那生理的に無理です〜」とか)
妻側夫側、女性側男性側、お互いの仕事側、
いろんな立ち位置でそれぞれに
共感するところがあるというか、
見事にその時々の心情を言い得ている
作品としての美しさと
人との関係を繋ぐ難しさ、
自分自身が抱えている悩みが"ココ"に
あったのかという発見というか驚きを
感じた衝撃作だったわけです。


それではまずあらすじをどうぞ!

夫婦の歪みと「再生」を高解像度で描く、
デビュー30年にして到達した恋愛文学の極致。
東京の広告代理店に勤める43歳の涼子は、
3歳年下で美容師の夫・孝之と結婚して13年。
毎日の生活にうっすら不満を抱えつつ、
表面的には凪いだ日々を送っていた。
ところが、20代の美登利を美容院の
アシスタントとして招き入れたことで
少しずつゆらぎが生まれて、、、。
気づかぬうちに"深い川"に隔てられた二人は
再び漕ぎ寄ることができるのか?
夫婦、そして、男と女の心理を
細密に描き出した傑作長編。

(出版社サイトより引用)


高解像度と細密、、、
まさに!!と
言い得ているほど
作中の描写が素晴らしい。
表現が的確かつ丁寧、
的確が故に歪んでいくし、
分かり合えない溝は深まるばかり。
一時的に通じたと思えても、
出会って、恋をし、結婚をし、
それなりに長い時間をともにすれば、
ホントに人と心の繋がりを保ち続けることの
難しさを痛感します。無論カラダについても。
「なぜこの人と結婚したのか?」
「相手の良いとこ悪いとこはどこか?」
「自分が何に満たされているのか?」
「自分が何に満たされていないのか?」
「自分が許せること許せないことは何か?」
「自分がどうしたいのか?」
「自分が生きる優先順位は何か?」、、、
これら自問自答と
徹底的に向き合う物語とも言えるかと。
そんなちょっとした歪みのある
夫婦生活をどう乗り越えていけばよいか、、、
言葉でもダメ、行動でもダメ、
相手を思っての発言や行動ですら
全て裏目に出てしまったり、
夫婦関係だけでなく、人間関係として
「男女の繋がり」という点では
ものすごい重要度の高いテーマを
この"不倫小説"から
感じ取ることができます。
お互いへの不満、違和感、分かり合えなさ、
これらを解消することができるのか、
何をどう選択すればよいのか、
考えさせられることの大変多い物語。
"不倫小説"なので、エンタメ小説としても
とても面白いのだけれど、
それ以上の筆致に圧倒されっぱなしで、
とても豊かな読書体験になること間違いなし!
僕は読後「あぁ本を読んだ〜」という満足感に
包まれる感覚を久々に得ましたね。

以下はさらなる主観的な考察&分析です。
なるべく本筋には触れないように、
今作の夫婦関係を僕の視点で
どう見ているかについて触れてみました。
お付き合い頂ければ嬉しいです。

どうだろう、
それだけ濃厚な「Row&Row」ですが、
一般的な読者の見解を想像するに、
"涼子"側の背中を押したいと思う人の方が
多いのではないでしょうか。
逆に"孝之"側に対して嫌悪感を抱く人が
多数派ということになるのかな。
そして女性読者のほうが多そう。
「早く離婚したほうがいい」だの
「こんな夫は生理的に無理」だの
「涼子は仕事もできて聡明な女性」だの
「こんな夫はクズ野郎」だの、、、
見方に偏りが出てきているような?
僕はそんな単純なものではないと思ってまして。
"涼子"は察する力がとても強いぶん、
"孝之"に対して「どうせ言っても
わからないだろう」と本来伝える
必要のあることを伝えずに、
半ば諦めている感がある。
かたや"孝之"は優しい男。
現代の"おじさん"に当てはまるかというと、
それとは異なり、
スマートな男性だと想像します。
しかも自分のやりたい仕事で
独立できているわけですし。
自立心もあり、働く目的のある男性。
十分に人として魅力的です。
ただやはり仕事のできる"涼子"への
コンプレックスは強い傾向にあるものの、
素敵な自慢の妻であることは変わりない。
意外と双方お互いを尊重できていて
良いバランスな気もします。

決定的な問題は「会話」ですかね。
性生活の不満ももちろんあるとは思いますが、
一番は「会話」だと僕は感じました。
「クリーニングに出した服がどうこう」とか
「近所の誰々さんがどうこう」とか
「昨日やってたTVがどうこう」とか
そういう現実的かつ表面的な会話のことではなく、
"涼子"はそこには見えない感性的な会話による
人の感受性への価値観や考え方を測れるような
アンテナ調整系の蓄積型の会話がしたいタイプ。
一方"孝之"は観た映画の感想一つをとっても
面白いか面白くないかといった短絡的というか
あまり感覚を深く言語化して掘り下げられず、
受け取った何かしらの感情や感覚が
すぐ霧になってうっすら残るけど消えていくような
「次、はい次」と刹那的で淡々と切り替わるタイプ。
当然"涼子"と会話のキャッチボールが深まらないわけで、
最初は小さなものかもしれないけれど、
次第にこの歪みが大きくなっていったことが、
すれ違いや違和感の大元ではないかと想像します。
"涼子"にとっては相手に響かない空虚感があるし、
"孝之"にとっては「それ以上求められても、、、
別によくない?」というような"涼子"からの
無言の圧というか圧迫感を感じるんだろうなと。
それが余計にコンプレックスを煽られるような感覚かも。
そして"孝之"は鈍感な所もあり、
"涼子"がもつ感性や教養とはズレた方向にある
配慮の足りなさがどうしても浮き彫りになってしまう。
この「会話」のズレ問題が
今作の歪みの最大の要因と分析するわけです。

となると、
"孝之"の不足感に軍配が上がってしまう。
"孝之"が悪者とでも言わんとするように。
でも"孝之"には別の長所もあるわけです。
通勤が大変だったり帰宅時間の変動が多い
"涼子"のために、車の送迎や料理、庭作業といった
面倒見の良さというかマメさ、
会話の鈍感さが欠点だとしても、
補充できるほど暮らしの面では
丁寧な性格が見て取れるわけで、
決して"クズ野郎"ではないのです。

逆に
"涼子"側の、本来伝えるべき言葉を
呑んでしまうような"諦め感"や
"秘密主義"的なところも悪さをしていて、
言いたいこと、言うべきこと、
我慢している気持ちなどなど、、、
これらを伝えないことも
この夫婦生活の歪みの
大きな原因でもあると見ています。
作中に出てくる、
本音となるようなモノローグを
"孝之"にもし伝えていれば、
"孝之"もそこまでバカではないし、
十分理解力があるタイプだと思うだけに、
夫婦生活の改善が見れたのかなぁと。
これが"涼子"側の不足感に該当するかと。

この両者の不足感による「会話のズレ」
いよいよ露呈してきたタイミングで、
(タイミングというのは良くも悪くも
大きな副作用になりうるなぁとしみじみ)
つけ込まれたわけではないものの、
新たな"美登利"という若い女性の登場によって
明確な歪みとなっていくのですが、、、

明日は我が身とでも言われているかのような
リアルがそこに込められていて、
ストーリーの面白さ1/2、文章の魅力1/4、
怖さ1/4、でも読みたいが120%、
そして美しさ200%!!という
僕にとっては類稀な完璧な一冊と
言っても過言ではない、
完成度の高い小説だったわけです。
読後、村山先生の凄さに圧倒され
金縛り状態だったわけです、ハイ。
直接創作秘話を聞いてみたいなぁとしみじみ。

語りたいことはまだまだあれど、
この辺にしておきましょうか笑
("涼子"側の魅力についてホントは
もっとめっちゃ語りたいのよ、、、)

結局、毎度のごとく
考察&分析が長文になってしまいました。
それだけに今作は
自己分析や気づきがとても多く、
共感も多く、読書としてもとても面白い、
長編小説「Row&Row」
紹介させて頂きました。
興味を持って頂けましたら幸いです。

当店村山先生のサイン本があと1冊ございます!
(売れなかったら僕が個人的に所有したいと
実は狙っていまして笑)

今回はこの辺で。
かなりの長文を読んで頂き、
ありがとうございました。

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