本コバブログ:書評「音のない理髪店」を読んで
「本と、珈琲と、ときどきバイク。」の
店主がお送りするブログ。
略して“本コバブログ”。
超久々!というか、2025年初更新!!
年が明けて、はや丸4ヶ月。もう5月ですか、、、
あっという間に時が経ち、季節は春。
#関西大阪万博 も開催され、GW後半真っ只中。
皆さま、大変ご無沙汰しております。
いかがお過ごしでしょうか。
近況報告としては、
2025年始より、
平日は再び会社員に返り咲きまして、
クリエイティブな日々を過ごしております。
平日は会社員+本屋作業、
土日は本屋営業、というルーティンで
休みのない毎日ですが、
このGW期間中、5/5,6(月・火)の2日間だけ
約4ヶ月ぶりの休みが訪れるというところまで
なんとか体調崩すことなくやって参りました♪
有給休暇が取れるようになるのは7月以降、、、
まだまだ気張らないといけませんね。
そんなこんなで、
今回は久々の書評ブログになります。
本屋大賞も先日発表になりましたが、
僕の本を読むペース上、
投票に間に合わせることができず、
本来なら本屋大賞の投票候補になっても
おかしくないほどの魅力溢れた
興味深そうな本たちを
ようやく今コツコツと読んでいる状況。
今年の新刊より去年の新刊を優先したり、
既刊で気になっている本たちを優先したり、
本の発売時期と実際に読書する時期とのズレが
来年の本屋大賞に投票したい本と出合う率を
下げてしまうというね、
なかなかジレンマはあるけども、
それでも、周囲の評判だけに左右されずに、
自分の目で魅力的な本と出合った時の
快感というか、素敵な時間は何物にも代え難く、、、
早速、素晴らしい本と出合ったわけでして。
備忘録としてこの場にてぜひ紹介させて下さい。
前談ですが、
本屋大賞発表と同時に発売される
「本の雑誌 増刊 本屋大賞2025」

この本は、
本屋大賞の投票に参加した全国の各書店員が
どの本に投票して、どういう感想を持ったかが
全てわかる一冊となってまして、
ノミネートされた10冊以外も含め
全データ掲載の素晴らしい本なわけですが、
今回のこのブログで紹介したい本も
しっかりと載ってましたね。しかも「11位」!
惜しくもノミネート10作から逃れてしまった一冊。
そうです、
今回ブログで紹介したいのは、
著者 #一色さゆり 先生による、
「音のない理髪店」です!
一色さんは、アート関連小説を描くタイプの作家さん、
僕がぜひお会いしてみたい作家の一人でもあります。
この本の発売は2024年10月23日あたり。
しかも今作はアート関連ではありませんで、
一色さんの祖父の実話に基づく
ノンフィクションでもありつつ、
小説としてフィクションになっているという作品。
昨年のうちに読んでおけば、
本屋大賞候補として確実に投票していたほどの
力ある一冊なのが悔やまれるところです。
でも本屋大賞関係なく、時代すら関係なく、
古くならない不変的な、ヒトとして根源的な
"良さ"を内包した小説なので、
いつの時代も味わえる一冊となっているのが
本作の魅力。
書評ブログとうたってますが、
僕によるただの本の感想と紹介です。
もしこのブログを読んでくださる方が
手に取ることがあれば嬉しいなという
その程度のレベルのブログなのでね、
表面的になりすぎず語りすぎず、
ちょうどよいバランスを狙って、
この本が読みたくなるような
表現を心がけたいと思います。

この本、帯に書いてある
「泣ける本」とか
「日本初の、ろう理容師」とか
「著者の祖父がモデルで実話」とか
みたいな煽り文句が目立ちますが、
そんなのはこの本の魅力を語る上では
あまり関係がないので
気にしないで大丈夫かと思います。
「"ろう者"が理髪店を開業する物語」
そんな程度に情報を入れとくだけでOK。
読み進めばその魅力は自ずと沁みてきますので。
惹き込まれる文体、
そして、なぜろう者がテーマなのか、
言語化しづらく、今まで言語化できていなかった
多くの目に見えない大事なことが描かれていると
感じられる一冊となっています。
ではまずあらすじから
「私の祖父は“日本で最初の、ろう理容師”です」
作家デビュー後、
前に進めなかった五森つばめが
祖父の半生を描くことを決意する。
時を超えて思いがつながっていく、
実話に基づく物語
大正時代に生まれ、
幼少時にろう者になった五森正一は、
日本で最初に創設された聾学校理髪科に
希望を見出し、修学に励んだ。
当時としては前例のない、
障害者としての自立を目指して。
やがて17歳で聾学校を卒業し、
いくつもの困難を乗り越えて、
徳島市近郊でついに自分の理髪店を
開業するに至る。日中戦争が
はじまった翌年のことだった。
そして現代。
3年前に作家デビューした孫の五森つばめは、
祖父・正一の半生を描く決意をする。
ろうの祖父母と、
コーダ(ろうの親を持つ子ども)の父と伯母、
そしてコーダの娘である自分。
3代にわたる想いをつなぐための取材がはじまった、、、。
(版元ドットコムより引用)
いかがでしょう?
あらすじとしては十分な内容かと思います。
現代と過去を行ったり来たり、
悩める作家、主人公・五森つばめが、
なぜこの物語を描こうとしているのかを
自問自答しながら物語は進んでいきます。
祖父が体験してきたことの
取材を通して明らかになる、
現代では想像もできないほどの
障害者への世間の扱い。
それに対してめげずに、
前向きに自分の人生を選択し
自立した考えで生き抜く祖父の強靭さ。
そして想いをつなぐこと。
そこには壮絶なドラマが待っていました。
素晴らしい作品だと思います。
本屋大賞にノミネートされていても
おかしくない一冊です。
現代において、作中にあるような理不尽さや
余計な苦労を経験する必要は全くありませんが、
"彼らがいたから今がある"というリスペクトだけは
忘れてはいけません。
そして、障害のあるない関係なく、
今を生きる全ての人たちに通ずるような何か、、、
「人としての"強さ"や"良さ"や"優しさ"」
みたいな、現代人が知らず知らず
失くしてしまった多くの要素が
この作品に詰まっていて、
読む前の予想を遥かに越えて、
物語に惹き込まれている自分がいました。
作中にいくつか素敵な表現があったので、
3つほど紹介させてください。
「私たち(ろう者)は人になにかを伝えたり、
意思をつなぐのにも骨が折れます。しかし
忍耐力を以て継続していけば、
なにかの弾みで変わるかもしれない。
はじめは難しいことも、つづけていけば
必ずできるようになりますからね。
たとえ今、あなたが成し遂げられなくとも、
別の人が繋いでくれると信じてください。」
↑耳が聞こえる普通の人でさえ、
コミュニケーションがスムーズにいかないのに、
ろう者側の目線でこんな事言われたら、
今自分が社会に立っているということの自覚、
本屋というこの場所、この仕事、
大切に育てていかなきゃと沁み入る一文です。
こんな文もありました。
「人は誰しも、可能性を持っています。
教育とは、その可能性を伸ばすことです。」
↑現代の教育って、暗記型がベースで
大学受験や就職試験に受かるためだけの
採点式の予備校的ポジションとしてしか
機能していないんじゃなかろうか。
本来の"教育"そのものの面白さがほとんどない、、、
それどころか現代の教育が本来の教育を
潰してしまっているとさえ感じます。
我々大人や日本の品位に関わる一言かと。
最後にこの一文、
「たしかに人は言語を手に入れると、
世界をより具体的に、正確に捉えられる
ようになります。しかし感覚や経験よりも、
言語が先にあってはならないのです。」
↑この俗世間に生きていると、
流されることは簡単でラクだけど、
自分を保つためには、
いろんな物事を考えずにはいられなくなる。
毎日過剰なほどの情報に触れ、
右から左へ流すこともあれば
興味深く捉えることもある。
そこには余計な物事も当然含まれていて、
大事なことを見失うこともしばしば。
なんとか言葉で留めておくしか
自分を保てないなと。
様々な気づき、発見、思考力、感性、
想像力、自立心、美しさなどなど、、、
他者と自分自身のために、
"言語化"の重要性を日々強く感じます。
社会の輪郭を自分なりに掴もうと
している結果なのですが、
でもその一方で、本来それら言語化は
感覚のあとにくるはずのもので、
ハッ!と気づかされる一文でした。
「そのように感じる」という直感そのものが、
言語化よりもはるかに早く正確に
自分らしく物事を捉えられる順番だよなと。
その感覚を磨かねばとも思うし、
その感覚を磨くのに最適なのが
バイクではないかとも改めて感じたのですよ。
"シンプルな物事こそ一番難しい"の一例かと。
ついつい言語が先に来てしまいがちで、
個人主体というか、人間側の都合主体で
知った気になっている
"あたまでっかち"な今の自分を
省みる上でステキな一文だと思いました。
いかがでしょうか。
この本、読みたくなりました?
断片的にその魅力をかいつまんだカタチに
なってしまいましたが、
ここまで魅力を感じた大きな要因は、
著者・一色さんの文体だからこそだと
思っています。
つい重くなりがちな障害者の話を、
ここまで惹き込まれる展開に仕上げた
一色さんや編集者をリスペクトしつつ、
そろそろ締めたいと思います。
毎度拙文ではありますが、
2025年一発目の書評ブログは、
「音のない理髪店」を
紹介させて頂きました。
障害者の話と聞くと、
どこか自分ごとではないと
興味の対象から外れがちですが、
一色さんの文体の魅力含め、
知らない世界を知り、
読んだことで新たな視界が開けるような
大変興味深い一冊だと思います。
ぜひ手に取って頂けましたら幸いです。
もちろん当店でも扱っておりますよ🤲
今回はこの辺で。
長文読んで頂き、ありがとうございました。
GW残りの休暇をどうぞお楽しみください。