本コバブログ:書評「タラント」を読んで

「本と、珈琲と、ときどきバイク。」の
店主がお送りするブログ。
略して“本コバブログ”。

今回は角田光代さんの新作「タラント」を読んで
思ったことなどを綴りたいと思います。
ネタバレなしで、表面的になりすぎず語りすぎず、
ちょうどよいバランスを狙って、
この本が読みたくなるような表現を心がけます。

僕の大好きな作家の一人、
角田光代さんの5年ぶりの新刊が出ました!
ちなみに発売日は2022年2月21日。

発売してから少し時間が経ってしまいましたが、
日々溜まる積読の中で、ようやく拝読できました。


やはりイイですね、角田さんの文章は。
内容よりも入ってくるのはまず角田さんの表現力。
情景描写、心理描写、会話が過不足なく、
ちょうど僕の脳に必要なだけ必要なぶん情報をくれる。
なので、なぜか読書に集中できない日でも
スッとその世界観に入ることができる。
どうやら角田さんの文体は
文章が言葉として脳に入ってくるというより
文章が感覚としてダイレクトに身体に入ってくる感じ。
まぁあくまで主観に過ぎないのですが。

小説だけでなく、角田さんのエッセイも何冊か読んでまして、
もはや角田さんのただのファン。だけど、、、勝手ながら
エッセイから人柄を想像するに、友達にはなれないかも笑。

そんな待望の新作ですが、
この本は現代を象徴する「生きがい」や「やりがい」に
対する考え方のヒントをくれる気がしました。


まずはこの小説のあらすじから。


片足の祖父、不登校に陥る甥、
〝正義感〟で過ちを犯したみのり。
心に深傷を負い、あきらめた人生に
使命―タラント―が宿る。
著者五年ぶり、慟哭の長篇小説
(出版社サイトより引用)

ちょっとあっさりしすぎだしよくわからん。
別のサイトによれば、

周囲の人々が“意義ある仕事”に邁進する中、
心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。
不登校の甥の手で、心にふたをした義足の
祖父の過去が繙かれるとき、みのりの心は…。

(hontoより引用)

まだこちらのほうが良いですが、いずれにしても
あまり多くを説明しないタイプの本のようです。


実際、あらすじをまとめるのが難しい本作。
明確な軸のあるメインストーリーが存在しないので、
表面的には「主人公みのりが少し前を向けた」程度。
ただ、この小説は結末を求めるための物語ではなく、
登場人物たちが何を考え、何に傷つき、そこから
さらにどう考えたかというプロセスを愉しむ本かと思いました。

何かを成そうと頑張っている人。
何もやりたいことがない人。
何かやりたいことを見つけられない人。
やりたいことを諦めた人。
いろんな生きる人が社会にはいて、
それぞれの生き様がある。
立派なものもあれば、些細なものもある。
その中で何に気づき何を重んじて生きるのが
自分にとって「良い」のかを探る心が大事だと
気付かされる本でした。

人は何かをしようとしなくちゃいけないのか?
周りは夢を持てとかやりたいことやりがいを見つけろとか
言うけれど、それがない人はどうすればいいのか。
その何かをしようと思う根源的なエネルギーはどこから来るのか
何か信じるものがあれば、俺でも私でも僕でも自分でも動けるのだろうか。


そんな問いをみのりを通して読者に投げかけ続けられます。

作中の文の表現だとこう書いてあります。
少し載せますと、

「もし私に信じるものがあれば、、、と、みのりは考える。
もしこうするのがただしいと強く信じていたら、
私は動くのだろうか、もっと社会とかかわりなさい、
世界に目を向けなさい、何もできないとしても
何かしようとしなさいと、その神さまなり宗教なりが
命じれば、できないに決まっていると思っていても、
勇気を奮い起こして動くのだろうか。そんなことを
考えてみるが、とくべつ信じるものもないみのりには、
使命感やリーダーシップよりもっと想像がつかない。」


そう考えながらも次第にみのりは気づくのです。

使命をもつことは才能だと思っていたみのりだけれど、
その使命というのは特別な才をもった人だけが成せる、
特殊任務のことだけでなく、
だれも彼もが何かしらのなんということのない義務感に
突き動かされ、それに従っていて、それがつまりは
それぞれにあたえられた使命であり才能だ。

ということです。
読者皆が「何か」に気づいて、
少しだけ背中を押され、少しだけ前を向ける
それを豊かな文体でたどれる一冊。

僕にとっては
実に実りある読書体験を味わえる本でしたね。
皆さんがどう感じるかは千差万別の本でもありますが、
現代を生きる皆にオススメしたい本です。

今回はこの辺で。
読んで頂き、ありがとうございました。

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本コバブログ:書評「タラント」を読んで” に対して1件のコメントがあります。

  1. ダイソー* より:

    通りすがりです。
    このブログで本を知り、読んでみました。
    心潤うステキな作品ですね。
    紹介ありがとうございました。

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