本コバブログ:書評「静かな爆弾」を読んで

「本と、珈琲と、ときどきバイク。」の
店主がお送りするブログ。
略して“本コバブログ”。

今回は書評です。
「吉田修一著 静かな爆弾」を読んで
思ったことなどを綴りたいと思います。
勿論ネタバレなしで、語りすぎず表面的になりすぎず、
ちょうどよいバランスを狙って、
この本を読みたくなるような表現を心がけます。

この本を読了後、
「あぁ、いい本だ」と
まず思ったのです。

つい先日SNSにもアップしました、
「高田郁著 ふるさと銀河線」でも同様に
「あぁ、いい本だ」と思ったので、
こちらはまた別途ブログにて
書評綴らせて頂きますね。

そう、
「あぁ、いい本だ」と
心から思わせてくれる本は
意外と少ない。
それが直近で上記二冊も出合うなんて。
これはとても珍しい体験です。
年間約7万冊の新刊が発売されていると聞きます。
いったい一年で何冊読めるでしょうか。
何冊素敵な出合いがあるでしょうか。
さらには手元に置いておきたいと思うほどの
一冊に出合う確率なんて、、、

ただ、変な意味に捉えないで頂きたいのですが、
僕のスタンスとしては、
どの本も基本的に素晴らしく
僕にとっては間違いなく良い本。
これは大前提。
その中でも
この「心から」というのが
読むタイミングだったり、
自身の精神性や身体性、
想像性、表現性、文体、空気感などなど
その本の読書体験の持つ様々な要素が
自分の思考力、価値観、想像力、美意識を
刺激し、満たしてくれるという点で
五臓六腑に染み渡る「あぁ、いい本だ」
という意味合いなわけでして。

前述のように、
世の中には素晴らしい本が山ほどあり、
とても読みきれない中、
今このタイミングでたまたま
ほとんど偶然で出合ったその一冊が、
なぜか芯を食ったように自身が求めているもの
だったというしっくりくる体験は
本好きには極上の至福体験に違いなく、
まさにセレンディピティーだと思います。

そんな体験をさせてくれる一冊となった
「静かな爆弾」ですが、
まずあらすじから。
サイトによって異なるので、二種類ご紹介。

①.
テレビ局に勤める俊平と耳の不自由な響子。
音のない世界に暮らす君に、
この気持ちを伝えたい。
言葉にならない思いが胸を震わす恋愛小説。
(出版社サイトより引用)

②.
テレビ局に勤める早川俊平はある日公園で
耳の不自由な女性と出会う。
音のない世界で暮らす彼女に恋をする俊平だが。
「君を守りたいなんて、傲慢なことを思っているわけでもない」
「君の苦しみを理解できるとも思えない」
「でも」
「何もできないかもしれないけど」
「そばにいてほしい」。
静けさと恋しさとが心をゆさぶる傑作長編。
(hontoのサイトより引用)


あらすじはあっさりしたものですが、
少なくとも
聴覚にハンディキャップのある女性との
恋愛小説なんだなというのだけはわかるかと思います。
そして主人公が気持ちを伝えるために
葛藤する話なのも想像できるかと思います。

実際本作は表面的にはその通りなのですが、
僕にとって何が魅力的に映ったかというと、
その描写、その表現の仕方、ですね。

耳の聞こえる人と聞こえない人
うるささと静かさ
動と静
差し出す側と受け取る側
会話と文字
気持ちと行動
気にすることと気にしないこと
何が大丈夫で何が大丈夫じゃないか
などなど

というように本作には「何か」と「何か」の
境界線や対比を描く表現が多い。
それによって
主人公の生きる世界と彼女の生きる音のない世界との
違いや互いを結ぶ結節点が輪郭づいてくる。
でもそれはあくまで主人公側の想像に過ぎなくて、
彼女の気持ちはわからないまま、という。
通じ合っているようでいて
すれ違うようなもどかしさを
少ない言葉で繊細に描けているところが魅力的。
文体や世界観がとても美しいと思いました。

結局
主人公が何をしたくて、何をして
彼女はどう思って、何をしたか
それに尽きると思います。
そしてそれを我々読者に想像させるという
想像の余地が多く残された作品なのも大きなポイント。

物語のボリュームも必要にして最小限なので、
静かで美しい描写が散りばめられつつも、
しっかりとトゲのある一冊。
まさにタイトル通り
「静かな爆弾」

このブログを読んで
たった一人だけでも読んでもらえたのなら
報われる思いです。

今回はこの辺で。
読んで頂きありがとうございました。

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